「十二の春」悩む公立小 首都圏、中学受験5万人超時代

asahi.comトップ >教育  2007年01月22日
 
 中学受験のシーズンがやってきた。私立や国立の中学校を目指す児童が、首都圏では5万人を超えて過去最高の見通しとなるなど、受験熱は高まる一方だ。受験する児童が多い都心の小学校では、試験に向けて欠席が増えたり、受験するかどうかで児童が二分されたり、様々な問題が生じている。首都圏と近畿圏の先生に実情を尋ねた。

     ◇

 「1日は何をしようか」

 東京都心にある小学校の先生は思案顔だ。6年生を担任するが、東京都や神奈川県の私立中の多くが入試を行う2月1日は、クラスの約7割が欠席する。

 がらんとした教室で、授業は進められない。登校してきた子どもに復習プリントをさせるのはかわいそうだ。ある年は出席児童を視聴覚室に集め、人気のディズニーアニメ「ファインディング・ニモ」を見せた。「学校に来ている子につらい思いをさせたくない。休まなかったご褒美のようなもの」。上映時間は2時間ほど。まだ時間が余った。

 別の小学校では、2月1~2日は6年生の6割以上が登校しない見込みだ。担任の一人は「個別指導をする良い機会なのかも」と苦笑する。同僚と「2クラス合同で復習中心の授業をしようか」と相談中だ。

 受験日だけではない。「年明けの始業式にだけ姿を見せ、ずっと欠席」「インフルエンザをうつされないよう、入試の2週間前から親が休ませる」「受験後、家族で1週間の海外旅行に行ってしまった」。現場の教師たちの証言だ。

 区の私・国立中への進学率が30%超と高い地域の小学校副校長は「3学期は授業にならないんですよ」と打ち明ける。2学期中にできるだけカリキュラムを終わらせる。6年生が減るので、学年の枠を超えた催しを避ける。音楽会では受験する子の役を軽めにしておく……。「小学校生活で一番輝ける時期なのに」

 一方で、授業と直接関係のない事務作業は増える。

 まず、志望校に出す報告書の作成がある。都内のある教師は冬休みや土日を返上し続けた。通知表のコピーでよい学校は増えたが、1人で10通書いてほしいと頼まれることもある。

 給食も一因だ。欠席などでひと月に5日以上食べないと、その分の給食費を返す決まりがある。児童ごとに欠席日を調べ、まとめておかねばならない。

 受験組が出席しても、別の悩みが降りかかる。

 クラスの3分の1が受験する兵庫県内の小学校。算数の時間では、受験組はさっさと問題を済ませ、雑談したり、机に突っ伏したり。塾での勉強疲れか、だらけぶりが目につく。

 40歳代の担任は「理解が遅い子を置き去りにするわけにはいかない」。同僚が担任するクラスでは、授業中に塾の宿題をやり始めた児童もいたという。

 この先生は、子どもたちに「学力だけが人間の価値じゃないよ」と、口をすっぱくする。塾でのクラス分けなどを通じて「あの子はすごい」「この子はたいしたことない」と「ランクづけ」が進みがちだからだ。

 東京都心にあり、約半数が私立中に進む小学校の6年生の担任も、「この時期は、受験する児童の一部は学校を息抜きの場にしている」とぼやく。

 気にかけるのは、やはり「ランクづけ」だ。どの学校が上だとか、誰が受かったとか言うもんじゃない。受験した子に結果を尋ねるのはやめよう、と訴える。

 受験しない児童も、2学期ごろから動揺する。都内の別の小学校の教師は、受験しない子どもたちに「頭が良いから、お金持ちだから私立に行くんじゃないんだよ」と説明している。3年後には高校受験がある。「時期が違うだけだよ」と語りかけている。


■私立中側、出席状況を考慮

 公立小の教師も受験は否定していないが、塾や入試突破にのめりこみ、学校がおろそかになることには疑問を投げかける。

 都心部にある小学校の教師は言う。「学校には友だちと協力して考えるとか、塾とは違う意義がある。そう言ってがんばらないと、学校って何なのかと悩みますから」。別の小学校の教師も「学校の諸活動で活躍する子は自信がつき、受験もうまくいく。むだなことはさせまいとすると、子どもは不安定になる」。

 私立中側も過熱する現状に対応し始めた。

 全国屈指の難関校である灘中学(神戸市)は、小学校で欠席が多い児童には受験を辞退してもらう。「塾の勉強ばかりやっているような子は、入学しても学校生活が難しい」からだ。試験で合格点に達しながら欠席日数の多さを理由に不合格としたこともあるが、事前チェックに切り替えた。

 首都圏の「女子御三家」の一つ、桜蔭学園(東京都文京区)も出願書類で出席状況を確認する。欠席が目立つと面接で理由を尋ね、合否を総合判断する。

 各地に誕生した公立中高一貫校の選考では、資料を読み解き、意見をまとめる力を問う問題が多い。都立小石川中等教育学校の遠藤隆二校長は「本や新聞で視野を広げて友達同士や親子で考えるなど、学校や家庭の生活を大切に、と説明会で強調している」と話す。

変わる中学受験地図

asahi.comトップ > 教育 2007年01月29日

公立の選択制・中高一貫も影響
 私立や国立の中学入試が佳境に入った。1都3県で過去最多の5万人余が受験する見込みの首都圏をはじめ、都市部の中学受験熱は高まる一方だ。少子化が進むなか、学校側も受験生を確保しようと、試験科目を減らすなど駆け引きを続ける。学校選択制や中高一貫校など公立側の改革の影響も表れ始めた。4大都市圏の今年の受験戦線を追った。

■関西―科目数・日程 駆け引き

 関西では、進学校が集まる京阪神地区で受験者が増加傾向にある。昨年の入試では、この地区の公立小6年生の10人に1人が私立中を受けた計算。首都圏の「ほぼ6人に1人」に次ぐ高さだ。

 今年の入試では、試験科目から社会科を外して「3科目型」(国語、算数、理科)を採り入れる学校が増えた。灘(神戸市)や甲陽学院(兵庫県西宮市)など、以前から3科目型だった有名校に合わせ、優秀な生徒に併願してもらおうという狙いからだ。

 試験の日程も受験生の動向に影響を与えた。

 近畿2府4県は昨年から入試解禁日を統一。もともと大阪と京都、兵庫は同日解禁だったが、特定の人気校への集中を避けて「共存共栄」を目指そうと滋賀、奈良、和歌山も合流した。今年の解禁日は今月20日。初日に入試を構える学校が多く、併願が難しかった。

 恩恵を受けたのが、年明け直後に入試をした岡山県内の二つの有力私立中だ。

 7日に入試があった岡山白陵(岡山県赤磐市)では今年、一昨年に比べて志願者が倍近くに増え、7割を京阪神からの受験者が占めた。昨年から大阪にも試験会場を設けた岡山中(岡山市)も、おととしは655人だった志願者(難関大コース前期)が今年、2倍以上の1514人にはね上がった。

■首都圏―公立改革 私立に恩恵

 首都圏では、既に入試が始まった千葉、埼玉両県に続き、2月1日に東京都と神奈川県で解禁される。大手進学塾「四谷大塚」の予測では、私立と国立中の受験者は1都3県で5万1千人に達し、過去最高となる見通しだ。

 中学受験人気を加速させている要因として、公立小中学校で急速に広がる学校選択制と、公立中高一貫校の開校に注目する関係者が多い。「学校を選ぶことが当たり前になり、私立も選択肢に入れる保護者が増えた」「私立を考えなかった層が中高一貫の利点に目を向けた」との指摘だ。

 学校選択制は、東京都では00年度の品川区が皮切り。今年度は中学校で23区のうち19区が、小学校でも14区が選択制をとり、市部でも導入が進む。神奈川県では中学校で7市、小学校では3市が選択制をとっており、千葉県でも九つの市と村で実施している。

 公立中高一貫校は、東京では05年に誕生し、既に5校ある。私立側は当初「生徒を奪われかねない」と警戒したが、昨年の私立と公立の併願は「多くて2割」(森上教育研究所)という。東京私立中学高等学校協会会長で、八雲学園中学高等学校(東京都目黒区)の近藤彰郎校長は「私立にとってプラスになった」と言い切る。

■東海―2番手なら公立へ進学

 愛知県は、進学実績を誇る公立高校が複数ある「公立優位」県だ。東海地方が地盤の進学塾「佐鳴予備校」の担当者は「何が何でも私立という人は少ない」と話す。大半の私立が受験生を増やしているが、成績上位の子は「2番手の私立より公立へ」との志向が強く、有力校に絞る傾向が強まっている。

 名古屋市で進学塾を運営する「名古屋セミナー」の安田龍男理事長も「私立中を4~5校も併願する例は減っている」と指摘し、「トップ校以外は、学力低下もあって入試が易しくなった。それなら公立に進んで高校受験で頑張ろうという選択でしょう」と話す。

 同じ名古屋市内でも、地域間で中学受験熱に差があるのも特徴の一つ。市南部の区では私立中への進学者が全体の3~5%なのに対して中心部では年々上昇、20%を超える区もある。

 ただ、公立側は冷静だ。名古屋市内のある市立中校長は「私立の受験者は増えているが、あまり危機感はない」。昨年度から年間の教育計画を書いたチラシを入学説明会などで配っているが、「公立で十分だよ、という意味を込めている」と話す。

■九州―際立つ志願者増

 公立志向が根強い九州でも中学受験熱が高まっている。福岡県では軒並み志願者数が増え、前年から1割増の中学も少なくない。東京や大阪などと比べてこれまで受験率が低かった分、伸びが目立つ。

 筑紫女学園中(福岡市中央区)の志願者数は昨年より100人以上多い836人で、過去10年間で最多だった。「増える予感はあった」という菅原盛之教頭は「景気が上向き、保護者は私学に通った世代。塾通いの子も増えている」。

 福岡大付属大濠中(同)でも前年より49人増の655人が志願した。村上繁教頭は「中高一貫の良さがマスコミで評価されたのが大きい」。ラ・サール学園(鹿児島市)の志願者も107人増の829人になった。

 「教育基本法、全国学力調査の4月実施、いじめ問題など教育や学力に関するニュースが急増した」。地元の大手塾・英進館の中村淳二教務部長は私学人気の背景を分析する。「私学全体の志願者数が底上げされた。公立信仰の転換まではないにせよ、この傾向は来年も続く」

 

 

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