中学入試の国語の問題でよく出る作家

asahi.com 2007年04月18日
入試問題、作者がらり一変 小説家に「世代交代」
国語の入学試験によく出る作家といえば、かつての大学入試なら小林秀雄、唐木順三、と言われたもの。だが、今年の出題を眺めてみれば、養老孟司、茂木健一郎、斎藤孝……と、ずいぶん様変わり。小説家の「世代交代」も進んでいる。
◆中学は小説を重視
大学入試では新書に押され気味の小説だが、中学入試では比重が大きい。ここ数年、圧倒的1位なのが重松清さん。
「作品の内容に踏み込んだ設問があるのはうれしいですね。僕の小説は心理を読み解くヒントがシンプルなんだろうな、接続詞がちょっと多いのかな、と入試問題から自作の特徴や、時には欠点も知らされます」と重松さん。よく出る作品も『エイジ』『きよしこ』のほか『その日のまえに』など幅広く、大手進学塾・日能研の国語担当者は「心情を読み取らせる問題を出したいのが出題者。読みやすいだけでなく深いところが人気なのでしょう」。
日能研の集計では、よく出る作家は、あさのあつこが続き、伊集院静、森絵都も人気だ。ちなみに10年前の1位は灰谷健次郎。森本哲郎、外山滋比古らの論説文が多く、文芸作品では井上靖、宮沢賢治、幸田文といった顔ぶれだった。
◆大学、新書からの出題激増
早稲田大国際教養学部の入試では今年、綿矢りさの『蹴(け)りたい背中』が登場した。設問では、クラスで孤立している「私」に先輩が言ったセリフの空欄を埋めさせたり、〈私の心にからみつく黒い筋〉という表現の説明を求めたり。旬の、しかも昨年同大を卒業したばかりの若手作家とあって受験関係者を驚かせた。
大手予備校の代々木ゼミナール国語編集部の土生(はぶ)昌彦さんは「『蹴りたい背中』のように、感覚的に書かれた小説は問題を作るのも解くのも難しい。僕たちおじさんは論理的に考えて解けない。でも高校生に解かせてみたら、これが正解するんです」と驚く。
夏目漱石、伊藤整、幸田文らの評価の定まった作品ばかりだった大学入試センター試験に、吉本ばななの『TUGUMI』が唐突に登場して話題になったのが96年。その後も99年に山田詠美の「眠れる分度器」、01年に江國香織の『デューク』と、人気作家の現代小説が時々顔を出す。今年の国公立大や私大の試験では、ばななのほか、山本文緒、伊集院静らが出た。
とはいえ、入試全体で見れば漱石、芥川龍之介はまだまだ健在。土生さんは「出題者が作家に思い入れがあるとあまり良い設問にならないようです。とくに情念の作家は向かないですね」と指摘する。
一方、最近、激増しているのが新書からの出題だ。今年度は梅田望夫『ウェブ進化論』、大塚英志『「おたく」の精神史』など。
906学部を対象に代ゼミの集計がまとまっている昨年度の上位7人は、上田紀行(14件)、茂木健一郎(13件)、鷲田清一(11件)、山崎正和(8件)、夏目漱石(8件)、斎藤孝(7件)、正高信男(7件)。特に受験関係者から「困ったときの鷲田清一・山崎正和」と言われるほど、この2人は入試問題での「流行作家」。6件組も、養老孟司、内田樹、山田昌弘らベストセラーリストそのままだ。
流行の新しい本を入試に採り入れる理由は、まずは「過去の問題とのだぶりを避けるため」と土生さん。新しい文章を探そうとすると、話題の作品やベストセラーを選びやすいようだ。「それに、新しい本にも関心や問題意識を持って読んでほしいという受験生への願望からでしょう」と見ている。
また、話し言葉で書かれた『バカの壁』『国家の品格』などをはじめ、読みやすさもひとつの特徴だ。
しかし、『教養としての大学受験国語』の著者で早稲田大教授(日本近代文学)の石原千秋さんによれば、国語の論説文には「適度の悪文であること」も求められるという。文章の飛躍を論理的に埋めさせる問題が理想だが、そのためには素直すぎても難しすぎてもダメ。作家にとって「適度の悪文」と言われるのは複雑かもしれないけれど。
だから、近年の分かりやすい文章を使った入試には「文章が易しくなると、技術だけで国語の問題が解ける」と手厳しい。文章が易しくなれば、点差をつけるために細かい設問を増やす。全体の論理に関係なく前後の7~8行を読むだけで解ける、というのだ。
「今の入試で測れる『国語力』は、文章全体の論理を読みとる力や、解釈する力ではない。本当の意味の国語力とは何か、答えはなかなか出ません」
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