中学受験地図が激変 「付属校戦争」勃発

asahi.comトップ > 教育  2006年10月27日


中学受験熱が高まるなか、首都圏の有力私大が付属中の人気を引き上げようと躍起だ。早稲田大は「直営中学」の09年設立を決め、中央大も理事会で中学新設に合意した。法政大、明治大は男子校を共学にして、広い敷地に引っ越す。少子化時代の勝ち残りをかけた「付属校戦争」の始まりだ。中学受験地図はどうなるのか。

早大学院の付属中新設は、早稲田内部で10年以上にわたって温められてきた構想だ。これに今年5月の大学理事会でようやくゴーサインが出た。

新しい中学は仮称で「早稲田大学中等学院」という。男子校で、生徒数は1学年3クラスの120人。東京都練馬区にある学院の敷地内に校舎を新築し、中高が「同居」する。

当初は08年開校も視野に入れたようだが、09年4月で正式決定した。学院の授業をしながらの工事なので、さらに1年遅れる可能性もあるという。

現在は学院が中心となってカリキュラムを策定中だ。

「学院では問題発見・解決能力の充実を図っています。生徒自らが情報を取捨選択し、考えをまとめ、発表する力です。新しい中学でも、これを応用した授業内容になるのでは」(ある教員)

男子校にしたのは、

「生徒集めで共学の早実中と競合するので、特徴を出したかった。学院も男子校だから、これまでの教育ノウハウも活用しやすい」(同)

早大傘下にはすでに早実中や早稲田中があるが、これらは大学や学院とは学校法人が違い、系属校と呼ばれる。「中等学院」は、大学が「直営」する初めての中学になる。大学側の期待は大きい。

「早稲田のカラーが好きな人を大学にそろえたい。偏差値だけで選ばれがちな現状のままでは、早稲田が崩壊してしまいますよ」

と、ある教授は喜ぶ。

だが、早稲田内部では、中学新設を求める大学側と、それに反対する学院側の間で長らく意見が平行線をたどっていたという。双方の関係者の証言をまとめると、こういうことだったらしい。

大学側は学院卒業生の学力低下に頭を悩ませ、10年以上前から何らかの改革を要請していた。

「少子化にもかかわらず生徒数をそのままにしていた影響で、学力の差が大きく広がったからなんです」(前出の教員)

学院側は学科試験のない自己推薦入試制度を設けるなど生徒の多様化を図ることで対応したが、大学側は納得せず、中学新設か共学化のどちらかを強く迫った。

その結果、学院側が中学新設をのんだ。

「共学という選択肢もあったが、法政大や明治大が付属中を共学に変えるのをみて、『金太郎飴じゃなくてもいいだろう』という意見に傾いたんです」(同)

中央大も少子化への危機感に背中を押され、理事会で初めての付属中の設立を決めた。

いまは詳細を詰めているところだが、中央大の創立125周年にあたる10年の開校をめざしているとみられる。東京都内で共学とし、生徒数は1学年200人程度になるという。

◇生徒を囲い込み、経営にも安定感

「中央大附(東京都小金井市)など3校ある付属のどこにでも進学できる中学にするよう、調整を進めているようです」(教育関係者)

中央大のある教授は、

「大学がロースクールで特徴を出しているので、新しい中学でも法曹界を体験する機会を与えて、差別化を図りたい」

と、希望を語る。

付属中の新設決定について、中央大の大久保信行常任理事は、こう話す。

「生徒を長期にわたって中央の校風のもとで育てたい。ほかの付属中に流れている子たちを取り込めば、経営的にも安定します」

一方、法政大や明治大は付属中高を都内で移転し、男子校から共学に衣替えする。

法政一中は07年、武蔵野市から三鷹市に移り、校名も法政大学中に変える。それを追いかけるように08年、明大明治中が千代田区から調布市に引っ越す。法政大学中はグラウンドやプールを同じ敷地内に構え、明大明治中も校舎の延べ床面積が2倍以上になるなど、広々とした環境をうたい文句にしている。

授業の面では、法政大学中が中3・高1の2年間で将来の人生設計について理解を深める課程を設けるなど中高の壁を取り払い、明大明治中は1クラスの生徒数を45人から35人に減らして少人数編成にするといった新たな取り組みがある。

明大明治中の吉田善明校長は共学化の意義を述べる。

「社会には男女が一緒にいるのだから、早い段階からお互いの価値を認め、尊敬し合う意識を育てたほうがいい」

もっとも、前出の教育関係者は、共学化の「本音」はここにあると解説する。

「女子にも門戸を広げたほうが受験生が集まり、いい生徒を確保できる、というのが大きな理由でしょう。女子は勉強や学校行事に熱心なので、校内が活性化し、学校の評判が上がるメリットもあります」

いずれにせよ、少子化をきっかけに、有力私大といえども付属校の変身を迫られているのだ。

こうなると、07年以降、首都圏の中学受験地図は大きく塗り替わりそうだ。森上教育研究所の森上展安所長に今後をズバリ予想していただいた。

●早稲田の「中等学院」は、入試日が2月2日。前後の日に早実中と早稲田中の入試があるからだ。偏差値はライバルの慶應普通部と同じ水準で63ほど。

●中央大の新中学は、2月1、2日と入試を2回。1日は第1志望者、2日は併願者を主にねらう。募集人数は一般的に2日のほうが多め。偏差値は青山学院中等部や立教池袋中と同等で、58程度が上限。

●明大明治中の女子は、ほかの共学校と同様に男子よりも偏差値がやや高く、60ぐらい。

◇入試回数増やし、中位校が対抗?

「2月2日は、男子が早大学院に流れるため、青山学院や立教池袋にも影響が出そう。中位校は入試回数を増やすなどの手を打ってくるかも」(森上所長)

立地でみると、「中等学院」、法政大学、明大明治の3中学が東京西部に集まる。まずは、この地域で「付属校戦争」の火ぶたが切られそうだ。

「早実の国分寺市移転は、東京23区よりも私立中の受験率が低いとみられていた周辺の多摩地区の意識を変えました。この流れがさらに強まるのではないでしょうか」(大学通信情報編集部の安田賢治部長)

四谷大塚の推定では、首都圏の1都4県で06年の私立中学受験率は過去最高に達したものの、まだ16・0%という。受験生増加の可能性は大きいといえる。

法政大の平林千牧総長(囲み参照)が、

「法政二中高と法政女子高は、どちらも神奈川県にありながら離れています。今後は二中高の広い敷地での『同居』も視野に入れて検討するなど、付属校改革を続けていきます」

と宣言するように、この戦い、まだまだあちこちに飛び火しそうだ。

 

 

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