生活習慣と学力の関係

asahi.com  2006年09月25日

実践報告をする江沢正思・山口県山陽小野田市教育長=8月26日、

家庭での生活習慣と学力の関係が、にわかに脚光を浴びている。「ゆとり教育」の
ような教育施策よりも影響が大きい、と訴える現場の先生もいる。文部科学省も今
年度から、小学校を対象に「早寝早起き朝ご飯」の取り組みを始めた。昔から言わ
れてきたことが今また強調されるようになった理由は――。

◆生活習慣と学力深い関係 成績いい子は8~9時に寝る

■■ 学力順 生活習慣ランキング ■■

ベスト3
(1)夜8時から9時までに寝る
(2)家で勉強を2時間以上3時間未満する
(3)学校以外で1カ月に本を10~12冊読む

ワースト3
(1)朝食を毎日食べない
(2)勉強は大切だと思わない
(3)家での勉強時間が0分

※山口県山陽小野田市の作成したランキングから抜粋

◆各地で報告・シンポジウム

宮崎市で8月に開かれた日本PTA全国研究大会。山口県山陽小野田市の江沢
正思教育長が、この春始めた「生活改善・学力向上プロジェクト」を報告した。

市は5月、市内の全小学生約3700人を対象に学力検査(国語・算数)と知能検
査、さらにテレビや睡眠時間、朝食などの生活習慣の3調査をして、クロス集計し
て相関を調べた。

すると、テレビ視聴時間は長くなるほど学力テストの成績が下がり、特に5時間超
の層は極端に低かった。寝る時間は「午後8~9時」の学力が最も高く、それ以降
は遅い子ほど成績が下がるとの結果が出た。

それだけでなく、「知能発達」への影響にも注目したのが調査の特徴。江沢教育長
は、朝食をいつも食べない層は学力テストだけでなく知能検査の数値もよくないとい
う今回の調査結果を例に挙げ、こう語る。「生活習慣は子どもの脳に生理的影響を
与えると考えられる。

生活習慣を学力の指標として示せば、保護者も改善しようとする原動力になる」

市教委はどの生活習慣が能力発揮のためによいかを訴える「学力順生活習慣ランキ
ング」=表=を保護者に配り、生活習慣の改善を訴えることにした。


◆「親子の会話、読書、睡眠を」

やはり東京都港区で8月に開かれた「教育夏まつり2006」でも、著名な教師らが
「学力向上には家庭での時間管理が第一歩」と、参加した親子に訴えた。

学力向上の実践で知られる陰山英男・立命館小副校長は模擬授業で、「テレビ視
聴時間は1時間半を超えた辺りから成績が落ちてゆく」と指摘。テレビなどの時間
を減らし、親子の会話や読書、睡眠など、脳に良いことに回すよう説いた。

シンポジウムでは、「よのなか科」で知られる藤原和博・杉並区立和田中校長が
「中学生の携帯電話利用は、夜中に2時間個室にこもってショートメールを200通
やりとりするような例もまれではない」と語った。

さらに、テレビや携帯電話に1日3時間費やすと年間では中学校の総授業時間を
超えてしまうと指摘。「子どもにテレビやケータイを好き放題に使わせておいて学
力の問題を学校などのせいにするのは、ちゃんちゃらおかしい」と強調した。

藤原氏の後を受けてマイクを握った港区教委の藤井千恵子指導室長も、都教職
員研修センターの調査(03年度)から、こんなデータを紹介した。《家族との会話
(1回20分以上)頻度について「ほとんどない」と答えた子の割合は、小6から高
校生までどの年代でも30%弱と一定している》

そして、こう語った。「親子の会話は年齢が上がるにつれて減ると予想していたの
で、意外だった。会話をしていない家庭は、初めからしていないのではないか」。

実は、77年の同種調査と比べると、全体の平均としては03年のほうが家族会話
の頻度は増えていた。藤井室長は「ここにも会話のある家庭とまったくない家庭と
いう『二極化』傾向が表れているのではないか」と話す。


◆共同生活の一員の自覚 子どもに伝える必要

横浜国立大学の高橋勝教授(教育人間学)の話 高度成長期の工業型社会では、
学校は将来必要な知識、技能や集団生活の規律を画一的に「教え込む」教育をし
ていた。地域社会の古い人間関係もまだ残っていた。その頃は、家庭で「自由・自
律」で子どもに接することが、自立を励ます有効な手立てとして働いた。

ところが、現代は家庭の中にまで情報・消費社会の「自己選択モード」が侵入し、
子どもたちは家にいても個室でインターネットや携帯電話とつながり、大人と同じ
「一人前の消費者」として振る舞う傾向が強まっている。食事もバラバラ、悩みもバ
ラバラ。寝て休むだけのホテルのような家庭も珍しくない。

本来、自由と自律は他者の尊重が大前提となる。ところが、消費社会は自己決
定や「自己選択」の感覚を肥大化させ、自分の欲求を抑制する他者の感覚が希
薄になる。

この環境のもとで、子どもを単純に「自由」に委ねているだけでは、バランスのと
れた他者感覚が養われない恐れがある。そこで、家庭でも学校でも、共同生活
の一員であることを子どもに実感させること、親世代の価値観を子どもにしっかり
伝えることが必要になる。

たしかに親の育児負担感が強まっているなかで、家庭の教育力だけを強調する
のは酷な面もある。地域社会のサポートも必要だ。しかし、やるべきことは難しい
ことではない。

親子がなるべく一緒に食事をし、会話をし、一緒に生活するスタイルを取り戻すこ
と。そして、家庭に共同生活の機能を回復することが、子どもが学びに集中でき
るための不可欠の前提になる。

 

 

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